羆嵐(くまあらし)を読んだ。
三毛別ヒグマ事件についての話は以前から知ってたけど、実際に読むと実に恐ろしいお話でした。詳しい内容は、これから読む人のために多くは触れませんが、自然と共に生きていた当時の開拓民の厳しい生活などもよく描写されていた。
当時の開拓民は、人肉の味を覚えて人を襲う羆に対し、鉄砲等は一部の人しか持っていなかったそうで、鎌やナタで対抗する以外なす術はなかったそうです。そして、襲われたのは、夫の留守を守っていた無力な妻と子供達でした。生きたまま身重の女性の腹を裂き、お腹の胎児を引きずり出し、女性の頭に咬みつき頭蓋骨ごとバリバリと食べ、頭髪を僅かに残しただけで、その殆どを胃袋に収めた羆。
しかも、その妻と子供の通夜にも、棺の中の亡骸を食べに羆が現れます。その光景を家の中で隠れて見て(聴いて)いた家族にとって、地獄絵図そのものだったでしょう。人肉の味を覚えてしまった羆の恐怖は想像を絶するものがありました。
時は現在になり、道南でも数年前に木古内町のトンガリチリチリ林道沿いの渓流で、釣り人がヒグマに襲われ食べられた事件があった。確か?この事件の直後、近くに車を停めて林道を歩いていた女性も羆に襲われ、命からがら車に戻って難を逃れたそうです。この時の羆の行動は、自分のエサ(釣り人)を横取りされると思ったので、女性に襲いかかったらしい。
山では羆避けのために鈴やホイッスル、爆竹などを携帯します。これは、羆が人間を避けるという行動をとるため、人間の存在を知らせるのが目的です。しかし、人肉の味を覚えた羆に対しては、エサのありかを教えるようなものでしょう。
この本を読むと、人肉を喰らう羆が実に恐ろしい野生動物であるように描写されていますが、読み進むうちに、羆が人間をエサと捉えた場合の自然なお話に思えてしまいました。不謹慎かもしれませんが、ヘビがカエルを食べるのと同じです。
大正4年のこの事件以来、羆に食べられたり襲われて命を落とした人の数がどの位なのか私には分かりません。しかし、一年で交通事故の犠牲で亡くなった方や、無差別殺人の犠牲者なら羆の犠牲者より二桁か三桁は数が多いのではないでしょうか。
高速道路を家族でドライブ中、飲酒運転の大型トラックに追突され、生きたまま焼かれた子供達や地下鉄でサリンを撒かれ犠牲になった方々、秋葉原で無差別殺人の犠牲にされてしまった方々等々・・・
自然(羆)の力は恐ろしいとはいえ、本当に恐ろしいのは、やっぱり人間でしょう?
変なオチがついてしまいましたが“羆嵐“必読の一冊です。
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